2005年4月・長期出張最終日の話

テンジロウです。

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2005年4月上旬。

大阪長期出張の最終日。

約1年の長期出張を務め上げた俺は、少しばかりの達成感と少しばかりの寂しさと大きな解放感を感じながら荷物を車に積み、自宅がある名古屋への帰路についた。

 

自宅では若かりしころの妻と、まだ1歳の長女が待っている。

当時、とあるマンションの6階に住んでいたのだが、そこから見える景色が俺は大好きだった。

俺の心は弾んでいた。

 

名神高速の何処かは忘れたが、京都あたりのサービスエリアから妻に電話をした。

俺「もしもし、多分夜の7時ごろには帰れると思う」

妻「わかった、ちょっと買ってきて欲しいものがあるから近くに来たらまた電話くれる?」

俺「わかった、自宅の最寄りインターを降りたら電話する、で?何が欲しいの?」

妻「知りたい?どうしよ・・・あ・と・で・ね、気をつけて帰ってきてね」

 

買ってきて欲しいものってなんだろ?あっそっか久々の再開だからな、と俺は少しピンクな妄想をしながら名古屋に向かって走った。

待ってろよ、今帰るぜ。

たしかBGMは「THE MAD CAPSULE MARKETS」だったと思う、ボリュームはガンガン。

 

MADな爆音と共に地元名古屋に帰還した俺は淡い期待をしながら妻に電話を入れた。

「プルルルル・・・プルルルル・・・」

出ない。

また後でかけてみよう。

自宅までは後、車で20分ぐらいだ。

 

10分後また電話をかけてみた。

「プルルルル・・・プルルルル・・・」

まだ出ない、折り返しもない。

俺はさすがに少し不安になってきた。

 

俺から電話がかかってくるのは分かっているはずなのに、何故折り返しもない?

長女に何かあって、電話も忘れてどこかに慌てて出かけたとか?怪我?病院?何か事故?

こういう時って考えれば考える程、不安や心配が増幅するものである。

とりあえず帰ろう。

妻と長女が心配だ。

 

マンションに帰ってきた俺は6階へと急ぐ。

いまだに折り返しの電話もない。

3時間前に感じていた、少しばかりの達成感と少しばかりの寂しさと大きな解放感など何処かに消え、この時の俺の心は不安と心配でいっぱいであった。

 

鍵穴にキーをねじ込み、回し、乱暴にドアを開ける。

「妻!長女!ただいま!大丈夫!?」

 

「おかえり」の返事も聞こえてこない。

おかしい。 

だがリビングに長女だけが立っていた。

長女が俺を見上げている。

ほげーっと立っている、ほげーっとしか言いようがないほど、ほげーっと俺を見上げて立っている。

「あっ!長女?お母さんは?」

しかし長女はまだ上手くしゃべれない。

「あぅぷおーあはは」

妻の姿がない、どういう事だ?

訳がわからん、一体何があった?妻はどこに消えた?まさか娘を残して蒸発?まさか、勘弁してくれ。

そこで俺は妻の携帯に電話をしてみたが、テーブルの上で妻の携帯が鳴った。

携帯も置いていってる。

とりあえず探しに行こうとしたその時。

ベランダの方から、ドンドンドン・・・ドンドンドン!

ん?は?え?え~~~?

締め出された妻がベソをかいてベランダにいた。

 

なにしとん?

 

ベランダで洗濯物を干していたら長女が中から鍵をかけてしまったらしい。

え~~!!?と気づいた時には時すでにお寿司。

携帯電話は部屋の中で、誰かを呼ぶ事もできず、2時間ベランダに締め出されていたとのこと。

どれだけ「鍵を開けて」と言っても、ジェスチャーをしても、当時まだ1歳の長女には理解できず、何か妻の行動をニコニコ楽しそうに見ているだけだったらしい。

 

俺が鍵を開けると、妻は安心からなのか何かよくわからないが大号泣。

妻には悪いがとりあえず俺は二人とも無事でホッとした。

俺の安心が伝わったのか、長女もなんだかニコニコ楽しそうだった。

 

しばらくして妻も落ち着いてきて、ピンクな妄想を思い出した俺は妻に聞いた。

俺「ところで・・・なに?が・・・ほしかったの?」

妻「あぁそうだそうだトイレットペーパーがなかったから」

 

あ・・・トイレットペーパーね。

俺「なんかゴム・・・とか・・・精力つくのとかは?・・・いらない?」

妻「え?・・・いらない・・・」

長女は、ほげーっと俺を見上げていた。

頭をなでるとニコッと最高の笑顔を俺にくれた。

俺は、少しの心地よい疲れと少しのガッカリと大きな安心を感じていた。

 

それからというもの妻はベランダに出るときは絶対に携帯電話を持って出ている。