あなたと僕と黒帯と

テンジロウです。

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少し長文になってしまいましたが、お時間の許す方はお付き合いください。

 

俺は小学2年生ごろから中学3年生まで空手道場に通っていた。

練習は毎週土曜日の夜と日曜日の午前の2回だった。

 

毎週末に練習で青アザを作り、1週間経って治りかけてきたころに又青アザを作るといった繰り返しだ。

 

俺はこの毎週の空手の練習が嫌で嫌でたまらなかった。

「テンジロウ、お前は空手を習え」という親父の想いで通っていただけだった。

 

しかし真面目な俺は、サボることもできず毎週毎週通った。

そんな俺なので空手の腕はメキメキ上達してしまい、自分で言うのもなんだが同年代の中ではかなり優秀な方で黒帯を獲得するのも早かった。

 

道場は俺が住んでいた団地から少し離れていたこともあって、同じ学校の奴もあまりいなかった。

人見知りの俺はそれもまた苦痛なのであった。

 

日曜日の朝は親父が車で送り迎えをしてくれた。

土曜日の夜は一人で自転車を走らせた。

道中、決まった場所にヤバいオッサンが立ってたんだが、その界隈では有名なオッサンで、じーっとこっちを睨みつけてくるんだ。

走って追いかけられた奴もいたな。

ジャージを着て、真っ赤な顔をした髭面のオッサンだ。

俺はそのオッサンの前を通るのが本当に嫌だった。

 

とにかく俺は空手道場に通うのが苦痛だった。

 

小3の時だったと思う。

俺は同じ道場の練習生から声をかけられた。

「なあ、お前あそこの団地に住んでるんだろ?俺もあそこの団地に住んでるんだよ、小学校も同じだな、お前自転車だろ?俺も自転車だから一緒に帰ろうぜ」

「うん、いいよ」とだけ俺は答えて、一緒に団地まで帰った。

 

その人は俺の2コ上でタケイチ君といった。

何といっていいかイメージ的には、くまのぷーさんみたいに人懐っこい感じの人だった。

それ以来、俺とタケイチ君は毎週一緒に道場に通うようになった。

俺にとって苦痛でしかなかった道場通いが少しだけ楽しくなったんだ。

 

土曜日の夕方、タケイチ君の家まで迎えに行き、一緒に道場に向かった。

ドンドンドン「タケイチく~ん」。

ガチャ「おう、テンジロウ今Zガンダムやってるからよ、観てから行こうぜ上がれよ」

 

Zガンダムが終わって二人で道場に向かうのだが。

タケイチ君も実は空手が嫌で嫌でしょうがなかったようで、道場に真っすぐ向かわず「なあテンジロウ、電気屋にパソコン観に行こうぜ」と俺を誘うのであった。

タケイチ君には兄がいたようで、当時パソコンが家にあるような環境だったらしい。

パソコンソフトを電気屋さんに二人でよく観に行った。

ファミコンしか知らない当時の俺はタケイチ君が少し大人に見えたものだった。

 

「なあ、テンジロウ今日さぼっちゃおうぜ」

挙句の果てにはこんな事を言い出すタケイチ君。

「え?だめだよ俺は練習に行くよ」

「そうか、じゃあ俺はパソコン見てるから、テンジロウが練習終わったら一緒に帰ろうぜ」

「うん、わかった」

なんて事もあった。

 

道場の帰りに二人で買って食べたアイスやジュース、本当に美味しかった。

行きは下り坂だったけど、帰りは上り坂。

帰りはいつも二人で自転車を押して帰った。

 

2コ上だったが、全然先輩面することもなく、同級生の友達の様に接してくれたタケイチ君が俺は大好きだった。

キン肉マンの19巻を借りパクされた時だけは心底ムカついたが。

 

そんなタケイチ君のおかげで俺は楽しく空手道場に通うようになっていた。

俺はタケイチ君を兄貴の様に思っていた。

タケイチ君も俺の事を弟のように思ってくれていたんじゃないかと思う。

 

そして時は経ち、タケイチ君が中2で俺が小6の時に二人同時に黒帯を手に入れた。

タケイチ君の方が長く習っていたのだから真面目にやっていればもっと早く黒帯を獲れただろうに、そこはタケイチ君らしいっちゃタケイチ君らしい。

 

そして程なくしてタケイチ君は受験の為か何なのか空手を辞めた。

それ以来俺たちは会うことは無くなった。

 

次にタケイチ君に会ったのは、俺が確か高校2年か3年の時だった。

バス停でバスを待っていると「あれ?テンジロウ?」。

ん?誰?と振り返ると、そこに立っているのは革ジャン・皮パン・ロン毛のメタルの兄ちゃん。

「俺だよタケイチだよ」

「え?タケイチ君?」

そこには、くまのぷーさんの面影など微塵もないメタルの兄ちゃんが立っていたのであった。

ギターケースを担いでバンドをやっているようだった。

今思えば、キン肉マンが好きで、ガンダムが好きで、空手の練習が嫌い、挙句の果てにはバンド。

やっぱり俺とタケイチ君って似てたんだな。

そりゃ一緒にいて楽しかったはずだ。

10分ぐらい会話して、また会おうと約束して俺たちは別れた。

この時はこれが今生の別れになるとは思ってもみなかった。

 

そして俺が確か21歳の夏、実家の自室でゲームをしていたある日の夜。

オカンが血相変えて帰ってきた。

「テンジロウ、あんたタケイチ君と昔仲良かったよね?昨日亡くなったらしいわよ・・・」

「は?なんで?」

「川で溺れたらしい新聞にのってるわよ」

俺は新聞を確認した。

・・・・・・まじやん

実名も書いてある・・・まじか・・・

「今日、集会場でお通夜だったらしいのよ、行く?」

「でももう終わってるだろ21時だぞ」

「手だけ合わせに行けばいいじゃない」

「おう、行こう」

俺はオカンと二人で集会場に向かった。

 

そこには憔悴しきったタケイチ君のお母さんがいた。

「昔、一緒に空手道場に通っていたテンジロウと申します。」

「そうなんですか、わざわざありがとうございます・・・」

本当にタケイチ君は死んでいた。

お母さんは泣きまくっていた。

俺はなんと言っていいか分からずただタケイチ君の遺影を眺めていた。

 

20代という若さで旅立ってしまったタケイチ君。

俺に少しの楽しい思い出をくれた。

できる事ならもっと会っておけばよかった。

タケイチ君のバンドのライブを一度でいいから観ておけばよかった。

一緒にお酒なんかも飲んでみたかった。

 

人はいつ死ぬか分からない。

あした死ぬかもしれない。

会いたい人には今会っておかないと二度と会えなくなるかもしれないんだ。

 

タケイチ君、黒帯まだ持ってる?

俺は、黒帯まだ持ってるよ。